テナントビルを「居ながらZEB改修」 HOWAビル津中央(前編)
- 20/05/22
- トリナ・ソーラー・ジャパン ニュース,太陽光発電関連ニュース・市場動向
HOWAビル津中央(津市)は築30年弱の賃貸事務所ビルだ。2018年に改修工事を実施してZEB Readyの建物とした。2020年4月時点で、既存の賃貸事務所ビルをZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)に改修したケースは全国でも5棟ほどしかなく(環境共創イニシアチブへの登録事例)、先駆的な事例の1つと言える。
HOWAビル津中央は、市役所や城址公園などが集まる津市中心部の一画に位置する。延べ面積3752m2の地上7階建て。茶色のタイルで外観を覆った重厚な印象の建物で、東面を除く外壁3面に横連窓が並ぶ。北側の前面道路の向かいに津地方裁判所や津法務総合庁舎などが建つ立地特性から、入居テナントには法曹関係の事務所も多い。
HOWAビル津中央の正面入り口側を北から見る。津市の中心部に位置している(写真:守山 久子)
2018年に設備の更新工事を実施してZEB Readyとした。建物の外観には工事に伴う変更が生じていないが、省エネ性能の向上をアピールした要素が玄関まわりに2カ所ある。1つはエントランスホールに置いたモニターだ。ZEBに対するビルオーナーの取り組みや、建物内の電気消費量と発電量などを画面に映し出し、前面道路から見られるようにしている。また玄関の上部のガラス面には、5つ星のBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)評価を示したラベルも貼ってある。
1階エントランスホールに設置したモニター。普段は外に向けて置いている(写真:守山 久子)
ビルの所有者は、トラック輸送業を中心に営む宝輪(三重県鈴鹿市)。経営多角化の一環でいくつかの既存ビルを購入し、不動産賃貸業も手掛けている。HOWAビル津中央(1991年完成)はその1つだ。今回のZEB改修には三菱電機がZEBプランナーとして参画し、改修工事を手掛けた三菱電機ビルテクノサービスとともに改修設計を担った。
「空調機器の更新時期が来たのを機に、ZEB化に取り組んだ」と、宝輪の園田修一氏(経営企画部・CSR推進室・教育センター・不動産管理部顧問、監査役)は話す。3カ月を費やして改修を進め、屋上には4.5kWの太陽光発電設備を設けた。創エネルギーを含まない1次エネルギー消費量の削減率(その他エネルギーを除く)は59%、創エネを含む同削減率は60%となる。
ZEB改修の主な対象は、空調設備と照明設備だ。HOWAビル津中央の1次エネルギー消費量(基準値)を見ると、空調と照明で建物全体の4分の3を占める。空調と照明の設備効率を高めれば、1次エネルギー消費量は大きく削減できる。
まず、空調機を高効率タイプの機器に置き換えた。照明については、共用部は既に発光ダイオード(LED)に置き換えていたため、今回はテナント部分のLED化を実施した。さらに空調や照明、コンセントの電気使用量を各階のエリアごとに集計し、BEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)による集中管理を導入した。これらにより設計時の1次エネルギー消費量は空調で約4割、照明は約2割へと圧縮できた。
BEMSのモニターは1階の管理室に設置している。月1回データを集計し、運用の改善を目指す。
テナントスペースの天井まわり。空調機と照明を更新した(写真:守山 久子)
ZEB化しやすい建物形状
今回のZEB改修では、建物の躯体には手を加えていない。「建物の条件がある程度整っていたことも、ZEB化が可能になった要因の1つ」と、三菱電機ビルテクノサービス中部支社栄支店営業課営業一係係長の前川聡史氏は指摘する。
ビルの外壁と屋根面には、ウレタンフォームやポリスチレンフォームの断熱材が施されていた。また、建物内の部屋の配置も有利に働いた。
建物は南北に細長く、南面がやや西側に触れた長方形平面となっている。テナントのオフィススペースが建物の西側を占め、北側の正面玄関から東側外壁に沿ってエレベーターや廊下などの共用部が延びる。通用口のある東南の角には立体駐車場が設けられている。
「東側の共用部と東南角の駐車場が実質的な断熱エリアとして機能し、オフィススペースの空調負荷を低減することができた。事前の調査で、この建物なら設備機器の高効率化を図ればZEB化できると判断した」と前川氏は振り返る。
ビルの外壁と屋根面には、ウレタンフォームやポリスチレンフォームの断熱材が施されていた。また、建物内の部屋の配置も有利に働いた。
建物は南北に細長く、南面がやや西側に触れた長方形平面となっている。テナントのオフィススペースが建物の西側を占め、北側の正面玄関から東側外壁に沿ってエレベーターや廊下などの共用部が延びる。通用口のある東南の角には立体駐車場が設けられている。
「東側の共用部と東南角の駐車場が実質的な断熱エリアとして機能し、オフィススペースの空調負荷を低減することができた。事前の調査で、この建物なら設備機器の高効率化を図ればZEB化できると判断した」と前川氏は振り返る。
1階平面図(資料:三菱電機テクノサービス)
計画に際しては経済産業省のZEB実証事業の採択を受けて、工事費の約3分の2を補助金で賄った。
既存テナントビルの改修で難しいのが、入居しているテナント企業の日常業務に影響を与えないようにすることだ。建物の躯体に手をつけず、設備機器の更新に絞ったとはいえ、テナントの室内に入って行う工事も多い。三菱電機、三菱電機テクノサービスは宝輪や管理会社と入念な打ち合わせをしたうえで毎週金曜の夜から土・日曜にかけて集中的に作業を実施。18年9月15日から同12月16日まで3カ月の工期中、テナントの机や備品類を1つも動かさずに「居ながら改修」の工事を進めた。
「ZEBプランナー、設計、施工のチームが連携し、改修計画から工事管理まで一体的に進めていくことができたため、テナントからは工事中のクレームを一切受けなかった。管理会社がテナントと日常的にコミュニケーションを密に取っていた点も円滑に工事を進められた要因だと思う」と園田氏は評価する。
改修後、テナント部分の光熱費は概ね3分の1に減少しているという。園田氏はビルオーナーにとってのZEB改修の意義を次のように語る。「ビルオーナーが負担する改修コストは確かに大きい。ただし建物の快適性が高まり、光熱費が減るというメリットをテナントに提供できる。築年数が古いビルでも賃料の水準を維持していくための手段になり得る」。
HOWAビル津中央の建築概要
所在地:三重県津市
地域区分:6地域
建物用途:事務所等
構造・階数:鉄骨鉄筋コンクリート造・地上7階建て
延べ面積: 3752m2
発注者:宝輪
設計者:三菱電機、三菱電機ビルテクノサービス
施工者:三菱電機ビルテクノサービス
完成:2018年12月(改修)
(日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)
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