132kWの太陽光発電を自家消費 前田建設工業「ICIラボ エクスチェンジ棟」(後編)

 前田建設工業ICI総合センターICIラボ(茨城県取手市)の中核施設に当たる「エクスチェンジ棟」では、自然エネルギーを活用しながら高い環境性能を実現した。前編に引き続き、施設の特徴と計画の狙いについて関係者が語る。

 

北西側から見下ろす「ICI総合センターICIラボ」の全景。中央がエクスチェンジ棟(写真:前田建設工業)

 

「エクスチェンジ棟」のあるICI総合センターICIラボはどういう施設ですか。

 

綱川隆司氏(前田建設工業建築事業本部ソリューション推進設計部BIMマネージメントセンターセンター長) 当社の100周年記念事業として2019年2月に開設しました。いわゆる技術研究所の機能を備えた施設ですが、ベンチャー企業をはじめとする「共創パートナー」と一緒にイノベーションに取り組んでいくことを大きな目的に据えているのが特徴です。

 

 3つの施設で構成したICIラボの中で、中心的な執務空間となっているのがエクスチェンジ棟です。免震を取り入れたうえで、柱が鉄筋コンクリート造、梁が鉄骨造というRCS構造を採用して広い無柱空間を実現しました。自由な席配置やパーティションを兼用したコミュニケーションボードを取り入れたり、ブレインストーミングエリアを設けたりするなど、活発な議論と情報発信を促す場づくりを意図しました。

 

エクスチェンジ棟の室内構成。可動式のデスクを用いて自由に座席を配置し、議論の活発化や生産性の向上を目指す(資料:前田建設工業)

 

3階の執務エリア。天井のアンビエント照明とスタンド式のタスク照明は、空間設計を意識したデザインにした(写真:前田建設工業)

 

2階のブレインストーミングエリア(写真:前田建設工業)

 

 このほか、カフェや個人ブース、フィットネスコーナーをはじめとするリフレッシュ空間をまとめた「ネスト棟」、多様な実験設備を配した大空間の「ガレージ1&2」があります

 

井水を熱源に活用

 

エクスチェンジ棟は年間の1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスになるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)です。計画では、太陽や風のほかに井水も活用しています。

 

今林憲一氏(前田建設工業建築事業本部設備設計部設備第3グループグループ長) 豊富な井戸水を有している地域に立地するので、井水を建物設備の熱源に活用しました。

 

 敷地の南北に2カ所の井戸を掘り、1つ目の井戸でくみ上げた水から採熱して2つ目の井戸に戻しています。空調運転時の外気の平均温度は四季の変化に応じて10度以下から30度近くまで変化しますが、井水の温度は年間を通じてほぼ17度を保っています。採熱水の温度も夏の冷房時に18度から21度、冬の暖房時はほぼ15度で推移し、熱源の負荷低減に寄与しています。

 

そのほかにも多様な設備技術を導入していますね。

 

今林 空調設備では、例えば3階に、デッキスラブを利用した天井放射空調を採用しました。金属製のパネルに冷温水配管を通し、アンビエント空調として利用します。デザインと施工の融合も設計テーマの1つに据えていたので、天井の放射パネルはワンタッチではめ込められるシステムにしています。

 

 このほかにも多様な取り組みをしました。建物デザインとの調和を意識して六角形に配したアンビエント&タスク照明や、チラー(冷却水循環装置)の温度などに連動させて季節に応じて自動開閉する内外ブラインド、空気温度の安定した免震ピットに空調室外機を置くことによる熱源の高効率化などです。水素を用いたハイブリッド蓄電による直流給電システムなど、試験的な試みもしています。

 

屋根と外壁に設けた太陽光発電はどのように利用していますか。

 

綱川 合計で約132kWのパネルを設置して、全てICIラボ内の施設で自家消費しています。蓄電池も用意していますが、これは実験装置に対する電源保証の意味合いが強い。巨大な機器を用いた実験を実施するため、多量の電力を消費するのです。

 

今林 南側の外壁に設けた太陽光パネルの発電量は水景の反射も利用することを期待しています。年間の実測値を調べたところ、反射効果がない場合を計算した値に比べて発電量は3.2%向上しました。

 

綱川 いずれ、隣接する「ICIキャンプ」を含めて電力を融通することも考えています。ICIキャンプは廃校となった小学校の建物を再生した研修や交流の施設で、ICIラボから1年遅い19年秋にオープンしました。意匠設計には、マウントフジアーキテクツスタジオ(東京都渋谷区)に参画してもらっています。

 

 今後は、運用方法を調整しながら、ICIラボとICIキャンプを連動させた総合イノベーションプラットフォームとして機能強化していく計画です。

 

前田建設工業建築事業本部の綱川隆司・ソリューション推進設計部BIMマネージメントセンターセンター長(右)と今林憲一・設備設計部設備第3グループグループ長(写真:守山 久子)

 

(日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)

 

 


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