基本設計後、ZEBに変更 テラル本社事務所棟(後編)

 ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)は省エネルギーを突き詰めると閉鎖的になりがちだが、テラル本社事務所棟は明るく快適な執務環境を目指した。前編に続き、テラルの今別府眞一氏と片山俊樹氏、設計を担当したプランテック総合計画事務所の鈴木涼氏と吉松宏樹氏、管理を担当している大林ファシリティーズの行竹優氏にプロジェクトを解説してもらう。

 

—— テラル本社事務所棟(広島県福山市)はNearly ZEBに該当する建築です。正確には、既存棟に連結させた増築ということですね。どのような経緯で設計を進めたのでしょうか。

 

今別府 眞一氏(テラル・ソリューション技術部部長) 100周年の記念事業として、企業理念を体現するオフィスを計画しました。当社社長の菅田博文がプランテック総合計画事務所(東京・千代田)会長の大江匡さんと懇意であることから設計を依頼しました。

 

吉松 宏樹氏(プランテック総合計画事務所) 敷地内に分散していた部署を1つにまとめ、会社の顔となる来客エリアをつくってほしいという要望を受けて設計がスタートしました。その後ZEBを目指すという条件が加わって外観やプランをいくらか変更しましたが、建築設計のベースとなる部分はほとんど変えていません。

 


テラル本社事務所棟の南側外観(写真:小林 浩志)

 

今別府 当初からZEBにするという計画はありました。せっかくZEBを目指すなら、創エネルギーを含めた1次エネルギー消費量の削減率が75%以上のNearly ZEBにしていこうと。そのためには自社技術を織り込みながら、風力、井水(地下水)、太陽熱、太陽光発電などの自然エネルギーを積極的に活用していきたいと考えていました。

 

 ところが設計チームにその話がきちんと伝わっていませんでした。2017年1月に基本設計が終了した時点で、ようやく設計チーム側もZEBを目指すことを知ったのです。お互いにとても驚きました(笑)。 

 

吉松 新しい事務所棟は延べ面積が2000m2未満で、当時の省エネ届け出義務の対象ではありませんでした。そのため基本設計時には外皮の熱貫流率も特に気にせず、設備はローコストで一般的な技術のものを想定していました。ZEBを目指すことになり、太陽光発電パネルを加えるなど設備計画は抜本的に変更しました。

 

今別府 結果的にはとても良い建築になりました。一般にZEBは開口面積を抑えた壁の多い建物になりやすいのですが、今回は開口の大きな明るい執務空間としながらNearly ZEBを実現できました。2階の執務エリアは20×50mの大空間で、しかも階高が高い。階高を2700mm程度にして気積を抑える場合が多いのに対し、今回は既存棟の階高にそろえたため2階の階高が3500mmあります。

 

 予想以上の結果で、ZEBを意識せずに設計を始めことがまさに「けがの功名」になりました。

 

吉松 設計側としても、ZEB化という条件が加わったことはむしろ良かったと思います。かなり特殊な設備を導入したので設備担当のチームも燃え、これは絶対にやりたいと前向きに取り組みました。

 

鈴木 涼氏(プランテック総合計画事務所チーフアーキテクト) ZEBの要件が後から加わったため、結果として大きな開口を確保できたという側面はあったかもしれません。意匠担当として実現したいアイデアをぶつけて議論しながら設計を進めました。

 

ZEB化のコストを3年で回収

 

—— 屋根面には57.75kWの太陽光発電パネルを載せています。例えば敷地内の空きスペースに平置きするといった方法はなかったのでしょうか。

 

鈴木 工場内には実はスペースのゆとりがありません。構造上の負担も考慮した上で、増築する事務所棟の屋根面で確保できる最大量を載せました。

 

吉松 当初案は屋根に人が上がらない仕様にしていました。この規模の建築では、屋根にコンクリートを敷かずに軽量化を図り、躯体(くたい)の鉄骨量を抑えてコスト削減するのが一般的です。ZEB化に当たっては、できるだけ太陽光発電パネルを並べ、来客にも見学してもらえるようにしたいという要望もありました。しかしコスト面などを検討した結果、非歩行仕様のままで最大限載せられるパネルを設置することにしました。

 


2階の執務エリア(写真:小林 浩志)

 

今別府 ZEB化に伴いコストアップするので、環境省の補助金(ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業)の活用が必要と考えました。そこでZEBプランナーのアール・エ北陸(富山市)にチームに入ってもらい、補助申請業務やその後3年間求められるデータの取りまとめをなど依頼しています。

 

 1次エネルギー消費量の計算では「創エネを除く1次エネルギー消費量の削減率」を、途中段階の45%からZEBの条件となる50%まで引き上げるのが大変でした。その点、ZEBプランナーはWEBプログラムの計算手法に関するアイデアを豊富に持っています。例えば給湯を太陽熱利用のシステムに変えると性能が2%ほど向上すると提案してもらったので、即、採用しました。

 

 結果的に、ZEB化のために投じた設備費から補助金を相殺したコストの純増分は、当初案と比較したランニングコストの削減によって3年以内に回収できる計算となりました。事業としてもうまくいきました。

 

—— 2018年11月に本社事務所棟が完成して8カ月ほど経過しました。社員の反応はどうですか。

 

片山 俊樹氏(テラル取締役総務部長) 室内が「暑い」「寒い」という声は多少出ますが、以前と比べて全体的に快適に過ごしているのは間違いありません。特に冬場、足元が寒くて頭だけ暖かいといった状況がなくなりました。これまで分散していた部署をワンフロアの大空間に集め、打ち合わせコーナーもあちこちにつくったので部門間の打ち合わせがしやすくなったのもメリットの1つです。

 

今別府 補助金を受けると3年間の報告義務があるので、使用後もしっかり運用していかなければなりません。これも補助金の効用と言えるでしょう。

 

行竹 優氏(大林ファシリティーズ・テラル管理事務所) 現在、空調は基本的に中央監視でコントロールしていますが、会議室の温度管理は利用者に委ねている状況です。またポンプの運転は私が判断しながら制御しています。

 

 こうした部分まで中央で自動制御するシステムを構築すれば、消費エネルギーはもっと削減できるでしょう。ただし社員の皆さんがZEBを意識し、かなりこまめに空調を入り切りしています。今のところ、そこまでの自動化は必要ないと感じています。

 

—— 設計事務所としては、ZEBに関する業務の今後をどう捉えていますか。

 

鈴木 ビルの設計業務は多く手掛けており、クライアントから環境対応を求められるケースも増えています。例えば本社の建て替えで先進的なオフィス提案を求められる際に環境配慮や省エネは重要な条件の1つになりますから、それに応えられる設計をしていかなければなりません。

 

 今回、ZEBの取り組みを体験できたのは会社としても意義深いことで、こうした設計をほかの事例でも展開していきたいと考えています。とはいえ、ZEBはそれ自体が目標となるものではなく、より良いオフィスを実現するための手段の1つです。こうした点を踏まえて、クライアントにとってベストな設計を提案できるようにしていくことが大切です。

 


左から、プランテック総合計画事務所の鈴木涼チーフアーキテクトと吉松宏樹氏、テラルの今別府眞一ソリューション技術部部長と片山俊樹取締役総務部長、大林ファシリティーズ・テラル管理事務所の行竹優氏(写真:守山 久子)

 

(日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)


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